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お酒のお供

お酒を飲みながら読んだら確実に悪酔いします。

劇場版「Momotaro」

全米が泣く劇場版シリーズ

彼は悩んでいた。耳元に水の流れを聞きながら、やはり悩んでいた。

彼の名前はドンブラーコ5世。鬼に仕える下僕として、日々たくさんの仕事に追われている。ストレスは日に日にたまり、夜眠ることすら難しくなってきた。そして遂にロックが外れてしまったのが今朝のことだ。

ドンブラーコ5世は明け方寝床を抜け出して、こっそりと鬼の金庫へと忍び込んだ。先祖代々続く鬼の家系に伝わる金銀財宝が所狭しと置かれている。その中から特に価値のありそうなものを選び、ポケットにしまい、また探し…

「何をしているんだ!」

ドンブラーコ5世が振り返ると、そこには大きな赤鬼が立っている。

「…も、申し訳ありません…魔が差してしまって…」

「いいや、許さん! 裁判じゃ!」

そしてドンブラーコ5世は、早朝から赤鬼・青鬼の夫婦とその両親、計6人から追及を受けることになったのである。四方八方から…いや、六方から怒声が飛び、ドンブラーコ5世はなす術もなくただうつむいていた。すると赤鬼が怒鳴った。

「ドンブラーコ5世よ! お前にはここで働く資格などない! 一度赤子の姿で人間世界に降り立ち、もう一度人生をやり直してこい!」

これに更に追い討ちをかけたのは青鬼である。

「あら、赤鬼さんったら優しいのね。もっと厳しく取り締まってやりましょうよ。私、このドンブラーコ5世が自分の名前しか名乗れないようにしてやりますわよ」

かくして、赤ちゃんの姿に変えられたドンブラーコ5世は桃のカプセルに詰め込まれ、川に流されてしまったのである。

 

そんな折、下流の村ではとある老夫婦が生活していた。男の名は「オジーサン」、女の名は「オバーサン」である。

オジーサンは趣味のゴルフをしようと思って山に入っていったものの、芝が伸び放題に伸びているのを発見し、それからというもの12年に渡って山の芝刈りを毎日続けている。

そんな夫を持ってしまったものだから、オバーサンは毎朝オジーサンの作業着を洗濯しなければならない。しかし、この老夫婦にはお金がない。洗濯機など買う余裕はない。そもそも、水道は止められてしまっている。そこで、オバーサンは川に洗濯に行くのである。ま、所詮は気休めである。

それにしても、貧乏人というのは欲張りである。川で洗濯をしているときに目に見えるものは、興味がなくても拾ってしまうのがオバーサンの習性である。1週間前には上流の街から流れてきた流しそうめんを手ですくって食べ、3日前には中流の集落の若者がこっそりと放流したワニを捕まえて食べ、昨日は洗濯をしているそばで立ち小便をしていた少年を丸呑みしてしまった。

そして今日は、大きな桃が流れてきた。オジーサンとオバーサンは二人とも桃アレルギーを持っていたが、それでも欲張りの気持ちが勝って岸に上げてしまった。

中から声が聞こえる。

「ド、ドンブラーコォ。ドドドドドンブラーコー」

「こりゃ珍しい桃だ」

オバーサンはその場で丸呑みしようとしたものの、さすがに自分のアレルギーに気を遣って、家までそのまま持ち帰ることにした。

家には既にオジーサンが帰っていた。

「今日は何を拾ってきたのじゃ」

「桃よ、桃! 大きな桃よ!」

「あぁ、『ごはんですよ』か」

「それは桃屋よ」

「ゆりあ とかいう写真家が…」

「それは太ももでしょ」

桃の中からは、まだ声が聞こえる。

「ドゥオンヴラークォー」

オジーサンはたまらなく怖くなって、手元の日本刀で桃を真っ二つにしようとした。するとその時、勝手に桃が割れたのである。

「ドンブラーコ(殺されちゃあたまらねぇよ)」

オジーサンとオバーサンは驚きのあまり心臓発作を起こして死んでしまった。しかし、このままだと話が進まなくなるのですぐに生き返った。

「こりゃ驚いたね、オジーサン」

「まあよかったじゃねえか、俺たちには子供がいなくて困ってたんだから」

「何を偉そうに言ってるのよ、アンタが種無しだからダメなのよ」

何はともあれ、ドンブラーコはオジーサンとオバーサンが育てることになった。

 

その頃、鬼のアジトにはある情報が入ってきた。

『ドンブラーコ5世、下流の村にて捕獲される』

赤鬼と青鬼は、ドンブラーコ5世がどんなようすで生活しているのかと大きな興味を持ち、下流の村に急行することにした。

しかし赤鬼と青鬼が来たとたん、下流の村は上を下への大騒ぎとなる。それも当然ではある。村の人々の平均身長は171cm、赤鬼と青鬼の身長はともに3m84cmなのである。倍以上の身長の生き物が来たら、それだけで村は大混乱の様相を呈することになるわけだ。

しかも、赤鬼と青鬼が歩くたび、その振動で村中の住宅が壊れる。幸い、オジーサンとオバーサンの家だけは助かったが、その他の家は見る形もなくなってしまった。

赤鬼と青鬼もさすがに申し訳なくなって、アジトへと帰っていった。

オバーサンは呟く。

「この赤ちゃんが鬼退治でもしてくれればねぇ」

「そうだなぁ」

 

翌日。オバーサンがドンブラーコの寝床をこっそり覗くと、昨晩とは全く違う、20代とも見られる好青年が横たわっていた。オバーサンは目を疑ったが夢ではない。ドンブラーコも物音で目覚め、紙に文字を書き始めた。

「口では『ドンブラーコ』しか言えないので筆談とさせていただく」

オバーサンは静かに頷く。

「私は紛れもなく昨日の赤ちゃんである。しかし、この物語の展開を早めるために一晩でちょうどよい年齢まで成長した」

オバーサンは合点のいった表情で、オジーサンに伝えた。

「昨日の子、これから鬼退治に行くみたいだわよ。それで、私がキビダンゴを作ってあげるの。それを餌に利用して、あの子は犬と猿と雉を仲間に」

「もう喋らなくてよい。ネタバレじゃねえか」

「こんなことより、あの子の名前、何がいいかしらね。家から送り出すときくらい名前を呼んでやりたいわ」

「桃太郎、でいいだろ」

飲み込みの早い村の人々は、既に『桃太郎さん送別セレモニー』の準備を終えており、あとはドンブラーコ5世の到着を待つのみとなった。

そこでタイミングよくドンブラーコ5世の登場である。ハリウッドスターさながらの歓待を受けて壇上に上がった。司会が原稿を読み上げる。

「えーっと、プログラム1番、校長先生のお話。校長先生、お願いします」

以下、送別セレモニーの内容は省略する。

その後、桃太郎決意表明式(ドンブラーコしか言えず、誰も何も理解できない)やキビダンゴ贈呈式などを経て、出発式を終えて遂にドンブラーコ5世は旅立った。

 

「やっと桃太郎らしい流れになってきたぜ。おっと、ここからはドンブラーコ語の和訳バージョンでお届けするぜ」

道を歩いていると、犬と出会った。犬はドンブラーコ5世に話しかけた。

「もしもし、お腰に着けたキビダンゴ、ひとつ私にくれたら鬼退治にお供するワン」

「ふーん、どうしようかなー。俺、キビダンゴには目がないんだよな。他人に簡単にあげられるようなもんじゃぁないんだよ」

「ならば、そなたを倒すまで!」

「やめろやめろ!北朝鮮じゃあるまいし、高射砲を人に向けるな!」

「じゃあキビダンゴをくれるな?」

「あぁ、やるよ」

犬が仲間になった!

「桃太郎さんよぉ、その鬼のアジトってのはあとどのくらいのところにあるんだぃ」

「ったく、よく喋る犬だなぁ。歩いて2時間ぐらいのところだよ」

「クーゥ。遠いねぇ」

すると、木から猿が落ちてきた。

「へーい、兄ちゃん。猿も木から落ちるってーのは全くこのことだぜ。兄ちゃんも油断してると危ないぜ。ここで俺にキビダンゴをひとつくれりゃぁ、鬼退治にでもどこにでもついてってやらぁ」

「またキャラの濃いやつが出てきたよ。分かったよ、キビダンゴやるよ」

「やったぜベイビー。仲間になったついでに、一ついいこと教えてやるよ。キビダンゴっていうのは、必ずしも黍が入っているわけじゃないんだぜ。漢字で書くと吉備団子だからな」

「何の得にもならない豆知識だな」

「アハハ、豆だけに」

「いや、豆の話は一回もしてないわ」

犬は既に旅に飽きてきた様子で、

「暇だからしりとりでもしようぜ」

ドンブラーコも仕方なく応じる。

「じゃあ、都道府県名しりとりな。じゃあ、最初は猿っちから」

「イエーイ。福井」

「茨城」

「京都」

「栃木」

けーん。

「岐阜」

けーん。

「福岡」

けーん。

「神奈川」

けーん。

「和歌山」

けーん。

「おい、さっきから県名をいう度に『県』って付け加えてきてるやつ誰だよ」

「俺じゃねぇよ」

「俺でもないってば」

「俺だよ俺だよ、志村けーん」

見上げると、上空に雉が飛んでいた。

「キビダンゴ一個くれたら鬼退治についていってやるぜぇ」

「お前かよ。はいよ」

こうして3匹の動物とともに、鬼のアジトへと入っていくことになった。

 

「来たな、ボウズ」

「来たヨーン」

「何度現れても同じこと…我らの財宝を盗もうとした罪は重いぞ!」

「ゆけ!犬、猿、雉!」

犬は鬼の脚に噛みつき、猿は引っ掻き、雉は目をつつく。しかし効果はいまひとつのようだ。特に、犬の攻撃がどうにも聞いていないように見える。ドンブラーコ5世は少し離れたところから見ていてもどかしい気持ちになってきた。そして、遂に犬が負けて帰ってきた。

「申し訳ございません、桃太郎さま。すごく弱い相手なんですが、手加減してやりました。っていうか、なんで桃太郎さまは戦わないのですか」

「負け犬の遠吠えとはこのことだな。なぜ俺が戦わないか? …そんなことより、なんでこういうときに高射砲を使わないんだ! キビダンゴをもらうときにはちらつかせたくせに!」

「あっ、そうか。いっきまーす」

ズドーン。

赤鬼と青鬼を倒すことができたとさ。

さて、これを無傷で眺めていたドンブラーコ5世だったが、鬼を倒したとなると有頂天になって、一目散に村へと帰った。村では鬼退治に成功したドンブラーコ5世を祝って、祝勝会はじめ各種セレモニーが開かれた。

一方、もと鬼のアジトに残されたのは傷だらけの犬、猿、雉である。もはや彼らにはドンブラーコ5世への忠誠心などない。自分の体を傷つけずに甘い汁だけを吸おうとするドンブラーコ5世に対する苛立ちだけが沸いてくる。

そして、3匹はドンブラーコ5世退治の旅へと出掛けた。

 

(完)