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お酒のお供

お酒を飲みながら読んだら確実に悪酔いします。

孤軍奮闘就活日記!(波乱万丈インターンシップ)

集中連載『孤軍奮闘就活日記!』

「孤軍奮闘就活日記!」の目次はこちら

 

こんにちは。

 

大学入学後からバイト勤務していた塾では、大学3年に至ってついに生徒からの史上最大のモテ期が到来していましたが、インターンシップ参加のためにバイトを休むことになりました。生徒たちはさぞかし寂しがることだろうと予想していましたが、2、3週間休むぐらいでは反応はなかなか淡白なものです。ま、そんなもんなんですかね(ちょっと期待はずれ)。

 

さて、出発当日。インターンシップ先の長野県に行くため、私は朝から新宿駅のホームにいました。

スーパーあずさ松本行きは既に目の前に止まっています。乗り込むのを今か今かと待っていると、緊張感がなぜか高まってしまって、普段は買わないコーンポタージュ缶を自動販売機で買ってしまいました。心理状態としては、初めてのデートで入ったレストランで、普段はワインなんて飲まないのに当然のように頼んでしまう、みたいなものですかね。

そして、いざ車内へ。後ろの人が来ないうちに座席を少しリクライニングさせておいて…と。ホームで飲みきれなかったコーンポタージュを窓際に置いて、荷物の入ったボストンバッグを棚に乗せて、読みかけの小説を座席に下ろして、さあ旅の始まりです。隣に座ったのは若い女性です。うほほ。恋の予感!(そんな予感ありません)

ふと小説を開いたものの、車窓の風景を見ないのはもったいない気がして、すぐに閉じてしまいました。流れる景色を見ていると、なぜか自分がすごく大人になった気分になったのは不思議なものです。気づくと既に東京からは抜け出していて、間もなく甲府駅に着くところでした。

甲府駅周辺の様子は車内から見ただけですが、のどかな街という雰囲気が出ていました。当時のバイト先(冒頭に述べた塾)の同僚だった甲府出身の女性は、この街には似合わないほどハゲシイ人でしたので、甲府駅とのギャップに少し驚きました。とはいえ山梨はリニアが通る予定ですからね。これから彼女のようにハゲシイ街になるのかもしれません。

さて、やがて到着した目的地の駅ですが、下車してみるとこれまた駅前がのどかなんですよ。空は晴れ渡って、歩く人はほとんど見当たらない。それでいながらきれいに整備されていて…。インターンシップに希望を感じていた私には、さらに背中を後押ししてくれるような爽やかさが感じられました。

事前に、駅前に信州そばのお店があることを調べていましたが、当日はあいにく休業日。駅ビルの中の軽食処で昼食を摂りました。

駅前からは、インターンシップ先のホテル方面に向かう路線バスが出ていました。これに乗ろうと列に並んでいると、同じような年代の男性がズラズラと。まさか全員インターンか!?と焦りましたが、この人たちは大学駅伝部の方々ということが車内で分かりました。合宿に来ていたようです。

結局、ホテル最寄りのバス停で降りたのは私を含めて3人。みんなインターンでした。軽く会話を交わしたあとで、ホテル従業員に誘導されて事務所に行きました。人事の方からインターンシップの説明を受けて、その日は寮の部屋に入りました。

 

ここまで長々書いてきましたが、まだインターンシップ先に着いたところですね。いよいよですよ、本題は。

私のインターンとしての配属先は、一般的に「フロント」や「ルーム」と言われる部署です。1週間早くインターンシップに参加しはじめていた同い年の男の子がいましたが、一目見ただけで恐らくお互いに「うーん、得意じゃないタイプだ」と直感したため、期間中ほとんど関わりがありませんでした(…っていうか、女の子いないのかよ!と思ったのはここだけの話です)。

ここで私が担当した仕事を簡単に紹介しますと、チェックイン時のクローク(荷物預かり)とチェックアウト後の部屋の片付け・受け入れ準備、備品などの部屋へのお届け、こんなものでしょうか。一生懸命に働きましたよ。

ここでふと、先程の男の子の様子を見ると、フロントバックで何やら社員と雑談をしているではありませんか。むむむ、これは差別か? その後も見ていると、彼はろくに仕事もしていない様子。フロント業務に当たる社員は女性が多かったのですが、おそらく彼が整った顔立ちだったので気に入ってしまったのでしょう。イケメンはこういうところでも得をするんですなぁ。

 

一方の私は、インターンシップ残り数日というタイミングで、大きな困難に当たりました。名付けて「カマドーマ事件」。

その日、夕方の勤務をしていると、ある客室からフロントに電話が入りました。社員が対応して、電話を切ると私の方へ向き直りました。

「カマドーマって知ってる? 虫なんだけど」

個人的な感情なのであまり公にしたくはないのですが、私はこの社員が苦手だったのです。そんな人の前で「カマドーマですか…知りません…」とは言えない、という男のプライドが邪魔をして、

「カマドーマ、分かります」

と答えてしまいました(オチャメ)。内心では、(カマドーマって何だ…すごく強そうな虫だな…飛ぶのかな…)と恐怖でいっぱいでしたが…。そんな私の心のうちなど知るよしもない社員は続けます。

「○○号室にカマドーマが出たらしいから、これで捕まえてきて。殺してもいいから」

渡されたのはボックスティッシュです。あっ、ティッシュでつぶせるような虫なのね。

少し安心した私は、指定された客室へ。

「フロントのPenでございます。虫の駆除にまいりました」

部屋に通され、「そこにいるのよ」と指差された先にはカゴが伏せられていました。カゴの中にカマドーマが捕らえられているというのです。…っていうことは、カマドーマという虫はやっぱり大きいのかな…?

おそるおそる開けてみると、「コオロギかゴキブリか、そんな感じの虫の後ろ足がバッタになったみたいなクモなんだけど、足が6本しかない」といったような、本当に気持ちワルイ虫がぴょんぴょん跳ねました。これをティッシュで包むなんて、東京生まれのシティーボーイには到底無理です。

しかし、宿泊客から見たら私はれっきとしたホテルマンです。ここで「やっぱり無理ですぅ」なんて言えません。ティッシュを10枚ぐらい重ねて、一気につぶしました。うえー。宿泊客からは「私、田舎に住んで長いしカマドーマもしょっちゅう見かけるけど、ティッシュでつぶす人は初めて見たわ」と言われる始末。嫌な役回りをさせられたものです。

ちなみに、カマドーマの正式な表記はカマドウマらしいです。かまどの近くに出る虫で、横顔が馬に似ていることから名付けられたんだとか。通称「便所コオロギ」。

 

そんなわけで、女性社員からチクチクといじめられ、男性社員には恵まれず、インターン仲間とも打ち解けることができないまま終えたホテルでのインターンシップ。ホテルに対する熱意は一気に冷め、この時点でホテルは志望業界から消えてしまいました。

帰路は台風の日で、東京方面行きの特急は運転を見合わせるなど、散々な目に遭いました。唯一良かったのは、到着日に入ることのできなかった信州そばの店で食べることができたことぐらいでしょうか。

東京に帰ってきた後は、インターンシップというものに対する意欲がなくなってしまって、結局このホテルでのインターンシップが最初で最後のものとなったのでした。