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お酒のお供

お酒を飲みながら読んだら確実に悪酔いします。

孤軍奮闘就活日記!(外伝編:いわゆる「リクラブ」)

集中連載『孤軍奮闘就活日記!』 外伝

「孤軍奮闘就活日記!」の目次はこちら

 

こんにちは。

 

前回の記事は文量も多く、書く方も読む方も大変な内容となってしまいました。今回は「リクラブ」についての記事ですから、うってかわって軽い文体で行こうと思っております。ちなみに、前回のようなまどろっこしい記事には「考察」というカテゴリータグを付けるようにしています。

 

さて、時は遡って今年の1月。当時、塾のアルバイト講師として冬期講習に臨んでいました。毎日朝から何時間も授業を行う中で、唯一ともいうべき楽しみだったのはランチタイムでした。同僚講師や生徒たちと和気藹々とお昼ご飯を食べるわけです。

ある日、最も仲が良かった(と私は信じている)講師から、こんな話を聞きました。

就活中って、恋愛しやすいらしいですよ。知り合いが言ってました。

「えっ! 彼女できちゃうんですか!」と驚きつつも、私は非常に大きな期待を膨らましたのでございます。……ふふふ。遂に俺の時代が来たか……。

就活中の恋愛、通称「リクラブ」ですね。語感からして、recruitとloveを組み合わせた和製英語と思われます。もう、ドキドキしちゃいますね。

「どんな業界を見てるんですか?」

「私は……百貨店とかですね」

「百貨店? デパートですか!」

「はい。デパートの雰囲気好きなんですよね。化粧品売り場とかときめいちゃって」

「女の子、って感じですね。……あっ。女の子っぽいとかってセクハラになっちゃうんですかね!?」

「うふふ、大丈夫ですよ! 私、女の子らしいって言われるの好きなので」

「それならよかった。……そうだ、このあと、暇あったりします?」

「あります! っていうか、今それ私も言おうとしてました……」(頬を赤らめる)

「……そうか……。君も同じ事を考えていたのか……。これが運命っていうことなのかな」

「運……命……」

「ごらん、あの夕焼けを。暖かい色をしているじゃないか。まるで僕らを包み込むような……」

「……お名前、聞いてもいいですか……」

「……ふっ。名乗るほどのものではないが、そうだな、これから二人で逢うことも多くなるだろうし教えておくか。私はPenだ」

「Penさん、ですね。……私は、カオリっていいます!よろしくお願いします」(赤い頬が夕日に照らされて、燃えるような色になる)

「……カオリ。今日の夜は何を食べようか。記念すべき夜だぜ」

「記念だなんて……もう。エッチなんだからっ」(目をうつむかせる)

「ハハハ。ごめんごめん。君の好きなものを食べようじゃないか。……ところで、何がエッチなんだ?」

「何がエッチだったのか自分でもよく分からないけど、とりあえず私、お芋が食べたい」

「イモ!? ……分かったよ。焼き芋でも食べようか」

――そして二人は、夜の街に消えていったのだった――。

 

はい。

実際に就活してみれば分かりますが、リクラブなんてよほどの美男美女でお互いに積極的じゃないと起こりません。当然のことながら初対面の二人が、ほとんど一目惚れに近い形で好意を寄せ始め、更に逢瀬を重ねることで恋に結びつくわけですからね。たまたまバスで隣り合わせになったり選考のときにかわいい子と話したりしても、なかなかラブには行き着かないのです。ま、ただ私が魅力的じゃないだけかもしれませんが。……って、何言わせとんじゃい。

 

ただ、私が就活中に女の子との関わりがなかったかといえばそうではないという事実。どーん。

あれは7月頃だったでしょうか。

だんだんと蝉が鳴き始め、夏も盛りに近づく頃。私は相変わらず企業回りに一生懸命になっていました。

「……ったく、毎日暑いな……。まだ次の面接までには2時間ぐらいあるし、喫茶店にでも入って涼むか……」

カラーンコローン。喫茶店のドアを開けます。「いらっしゃいませ、お一人でよろしいですか」という店員の声。それだけで涼やかな気分になるというものです。

「さて、何を飲もうかにゃ」

メニューを開きますが、私が喫茶店に入ったら頼むものは一つしかありません。レモンティーです。レモンの爽やかな味と紅茶の深み。夏でもホットで頼むのがイケメン兄さん・Penの流儀というものです。

「すみません」

「ご注文お決まりですか」

そこでやって来たのがかわいい女の子です。私は何故かカッコつけてしまって、レモンティーのレの字も出さずに、

「エスプレッソで」

ちなみに、私がカッコつける時はエスプレッソを飲みます。これは高校時代からずっと変わらぬこだわりです。だって、カッコいいじゃないですか。エスプレッソっていう響きが。過去に私が書いた小説でも、主人公が女の子の前でキメようとしてエスプレッソを頼むという場面を書いてしまったほどです。

「エスプレッソですね。かしこまりました!」

エスプレッソ、ワンプリーズ。と言ったかどうかは知りませんが、とりあえず注文は完了。またあのウェイトレスさんが来てくれたらいいのになぁーなんて考えていたら、隣にお客さんが来ました。リクルートスーツを着た女性です。なんとなくいい香りがします。きっとどうせ二度と会わない相手、ここは一発話しかけてみましょうかね。面接の運試しじゃ。

「……就活生……ですか?」

「あっ、そうです」

うーん、引きが弱いな。モウチョイ話しかけてみるか。

グァ~~~~。エスプレッソマシン、もう少し静かにしてくれ。雰囲気ぶち壊しだよ。

「じゃあ大学4年……」

「そうなんですよ。まだ内定もらえてなくて」

「僕もまだ内定とってないんですよ」

そんな話をしていると、先程のかわいいウェイトレスがエスプレッソを持ってきました。

「エスプレッソお待たせいたしました~」

私は既に隣の就活生に注意が向いているので、どうせ恋の進展なんて期待できなさそうなウェイトレスにはここでお別れ。

「ありがとうございます」

すると、隣の就活生が話しかけてきました。

「どんな業界見てるんですか?」

「食品と機械のメーカーが中心、っていう感じですかね~」

「へー、そうなんですか! 私も今、機械メーカー見てて」

「偶然ですね。僕、これから面接なんですよ」

「もしかして、××社ですか?」

「何でわかったんですか!」

「私も今日面接なので……」

なんという奇跡。これは何かの運命に違いありません。

「席、そっちに移ってもいいですか?」

「どうぞどうぞ。まあ、私あと15分ぐらいしたら出るんですけどね」

向かい側の席に置いていたバッグを自分の方に持ってきながら、彼女は微笑みました。空いたその席に腰掛けて、私は話を続けます。

「何時からの回の面接ですか?」

「14時ちょうどです」

私より1時間も早いではありませんか。私が着くのが早すぎたのが悪いのですが。その後は「就活、大変ですよね~」なんて他愛もない話をしていました。

「あっ。連絡先とか交換しておきます?」

あたかも、Penさん私と連絡取り合いたいでしょ?と言わんばかりの言い方です。見透かされた気がしてドギマギしていると、彼女は続けました。

「業界が同じだから、話も合うかもしれないし」

「そうですね」

まるでドラマのような予定調和。しかしここからが現実味を帯びてくるところです。私の連絡先はこれです、と言って渡された紙に書かれていたのが、こんなモノでした。

"xxxx245@pen-univ.ac.jp"

大学の学内メールアドレスじゃねえかっ!! それを見て、私も察しました。本当に就活中だけの関係で終わらせたいのね。こちらも同様に大学のメールアドレスを書いて渡しました。

彼女が喫茶店を出て行ってからしばらくして、私も会計を済ませました。夏の強い日差しが、私を包み込んでいた「リクラブの妄想」から抜け出させてくれた気がしました。これが冬の北風だったら、クリスマスなんかを意識してしまって、余計に妄想が膨らんでしまっていたかもしれません。

 

これを「リクラブ」なんて言ったら怒られてしまいそうですね。結局、彼女とはその日のうちに5、6通のメールのやり取りをして以降、関係は途切れてしまいました。まあ、そんなものなんでしょうねぇ。特に寂しい気がしたわけでもありませんし、一日ぐらいこういう日があるのもリラックスには良いかもしれません。

でも、リクラブはリクラブで、成功すれば心の安らぎになる気がします。就活中は孤独ですからね。実際に、恋人がいる人が羨ましかったこともありました。無理に恋人を作る必要はないでしょうけれど、愛の力は絶大ですからね。きっと力になることでしょう。

最後に、私が好きな作家の一人であるサマセット・モーム(William Somerset Maugham)の名言を一つ。

The love that lasts the longest is the love that is never returned.

最も長く続く愛とは、決して報われない恋である。(訳: Pen)

片想いが一番長く続く愛なんですって。モームは皮肉っぽい名言が多い人ですが、どれもいい得て妙なんですよね。確かに、私も就活中に、「一度しか会っていないあの子」と一緒に入社したい、みたいなことでモチベーションを上げていたことがあります。

あっ。エッチですね。何がエッチなんだ? 自分でもよく分からないけど。

 

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集中連載としての「孤軍奮闘就活日記!」は、これで終了となります。短期連載のつもりで書き始めたこのシリーズでしたが、振り返ってみれば最初の記事の投稿日は9月26日。随分長らく続けていたようです。

今後は再び自由論題で記事を書いていくこととします。笑いあり、涙ありのブログを作っていく予定ですので(自分でハードルを上げてしまった)、今後ともよろしくお願いしますね。