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お酒のお供

お酒を飲みながら読んだら確実に悪酔いします。

長くて短い話

Penの日常

帯に短し襷に長し。そのくらいなら楽なものですよ。ちょうどいいところで切っちゃって襷にすればいいじゃないですか。

大は小を兼ねる。いやいや、そんなわけはあるまい。何事にもそれに適した大きさというものがあるわけでして、大きければ小さいものまでカバーできちゃうなんてことは滅多にないのです。

 

率直に言いましょう。スラックスの類を買おうとすると、なぜあんなに裾が長いのでしょうか。嫌みですか。いや、それにしたって長すぎます。まあ聞いてくださいよ。

 

今年就職するに当たって、スーツを一揃え買いに行ったのです。紳士服のモナカ、あ、間違えた、紳士服のコニカミノルタ、また間違えた、まあいいや、そんな名前のところです。大学生協から「卒業祝い」の名目で特別クーポン券が送られてきまして、これは行かないわけにゃいかないということでございます。

 

入口に立っている男性店員。ほらぁ、こういうのが苦手なんだよう。

「ごゆっくりどうぞ」

…って、あなたがすぐ近くでうろうろしてるからゆっくり見られないんですってば。これは仕方ない、それならこっちから逃げてやれというわけで、店の奥の奥へと入り込んでいく私。すると店員がついてくるではありませんか。ストーカー被害で交番に届けようかな。そんなことを考えている暇もなく、店員のこの一言です。

「何かお探しですか」

あっ、待てよ。これは中学校の英語の教科書にありがちな May I help you? じゃないか。これの答え方は英語も日本語も同じさ。

「あっ、まだ見ているだけです」I'm just looking.

しかし簡単には引き下がらないのが店員の店員たる所以です。

「お客様用のスーツをご覧ですか?」

「はい、そうです」

「こちらはB体の方の大きさですので、お客様には大きいかと」

あれか、家庭科で習ったぞ。痩せている方からY, A, B, Eで太くなっていくんだよね。そりゃB体じゃ合うわけないや。

「そうだったんですか!どこを見ればいいんですか」

もう店員の思うつぼにはまってしまったわけですね。無駄な悪あがきはやめて、大人しく店員に従うことにします。

「お客様は165cm程の身長でお間違いないですか」

「えーっと、もう少し高いと思います」

「では170cmということでもよろしいでしょうか」

「ええ」

そりゃあね、店員は推定180cm超の高身長とお見受けしますので、私がパッと見でどのくらいかなんて判断しにくいですよね。寛容な心持ちで受け入れます。

 

それからというもの、しばらくの間ああだこうだと店員のやり取りをしまして、いよいよ試着のお時間でございます。紺のスーツを試着室に持っていきまして、カーテンを閉めました。今から私着替えるんだからねっ。覗いちゃだめよっ。

 

……。

やはりかっ。ウエストがユルユルなのはまだしも、裾が長すぎるんだよっ! 忠臣蔵浅野内匠頭じゃあるまいしっ! 「殿中でござる~殿中でござる~」と刀を振り回したろか。

そしてスーッとカーテンを開けました。そこに立っている店員。ふと名札を見たら「店長」と書いてあるではありませんか。今まで邪険に扱ってすみませんでした。

「ウエスト、10cm弱余っちゃってますね。アハハハハ」

アハハハハじゃないよ、まったく。どうするって言うんですか。店長さん。

「これはA体のスーツなんですけど、だからといってY体のスーツを持ってきちゃうと肩がキツいと思うんですよ。お客様はウエストのわりに肩幅がかなり広いので。女性だったら、ボンキュッボンの体つきと言いましょうか。アハハハハ」

アハハハハじゃないっていってるでしょうが。私が苦笑いをしていると、店長さんはA体のなかでウエストが細いのを持ってきてくれました。

というわけで、再び着替えます。覗かないでよねっ。エッチなんだから、もうっ!

 

……。

またもや悪夢! いや、ウエストは確かに細くなりました。ベルトをすればちょうど良さそうです。それに引き換え、この裾の長さよ。ウエディングドレスじゃないんだからさ。

再びスーッとカーテンを開けます。そこには店長さんが…っていないじゃん! 「あ~、すみません、さっきのスーツを戻してました」なんてオチャメな顔してないで私の相手をしてくださいよ。

「これだと良さそうですね」

でしょ? じゃあこれ買います。

「そうしましたら、まずは袖の長さですね…肩幅の割に腕がさほど長くないようなので、2.5cm詰めますね」

肩幅の割にって余計でしょ。いかにもアンバランスな体型みたいな言い方じゃないかっ。

「ウエストは3cm詰めます。それで裾なんですが…」

それよ。このバカみたいに嫌味な裾の長さをどうにかしてよ。

「裾は17cm詰めますね」

じゅ、じゅうななせんちだと!?

このスーツは170cmを標準としているわけです。いくらスタイルが良くたって、このPenさまより17cmも脚が長い170cmなんかいるわけがありません(と信じたい)。そんな体型の方がアンバランスじゃないですか! どう考えてもこの裾の長さはさすがに大袈裟ですよ。試着室で「俺って…脚が短いのか…」と落ち込ませるだけの、誰も得をしない悪いイタズラです。

 

スラックスひとつでこんなに悩むのなら、いっそのことスカートでも履いてやろうかい。